ストレッチゾーンへようこそ
N:長野に来てから、よく体を動かすようになりました。スポーツは好きだし、山登り、クライミングもします。
K:私は、中高生の頃は、学校で山登りをやっていたのですが、それから「山登りは、もうやらない。」と思っていました。(笑)ずっと、主人の誘いを断っていたのですが、一度、嫌々主人に付いて行ったらハマっちゃって。(笑)それから、子供生まれる前は、シーズンだと毎週出かけたりとか、月に1回は必ず2、3泊で山やキャンプに出かけていました。あの体験がなかったら、今の自分が無いと思うぐらいです。(笑)自分らしくなりました。
N:最初、全然やる気無かったんですよ。(笑)1度、クライミングの体験に騙して連れて行きました。
そしたら、すごく楽しんでいて。(笑)僕が最初に始めていたのですが、どんどん上達していきました。(笑)
K:クライミングにはオブザベーションという、観察して考える時間があります。どう登っていくのかを観察して、考える時間です。これは子育てや、料理など日々の生活にも生かされることが多いです。目的を考えて、俯瞰で見て、手段を決める。
なんでもクライミングです。(笑)
N:クライミングと日常が結びつくことは多くあります。例えば、不安レベルについて。人それぞれ、コンフォートゾーンという範囲があります。不安にならない行動範囲です。その先にストレッチゾーン、デンジャーゾーンと大枠で3段階あるんですが、人間ってコンフォートゾーンに居たがるんですよ。日々の習慣行動から逸脱するものはなるべく避けたい。コンフォートゾーンだけでは成長が無いので、新しいことに対してのチャレンジ精神がわかない。その点、ストレッチゾーンは我々の可能性を発揮できる機会を与えてくれます。
K:アウトドアもそうで、いつものフィールドがあって、少しチャレンジするストレッチゾーンがあります。
N:アウトドアってそもそも小さなリスクがいっぱいあるから、本能として楽しいって思えるんだよね。少し普段の生活と違う非日常感は新鮮な体験を与えてくれるし、五感が気持ち良い。
普通の生活をしていると五感が鈍ってきてしまうので、たまにアウトドアフィールドに出かけて、リセットしてあげる。自分の感覚を呼び戻すというか、元に戻してあげる。
自分の感覚を研ぎ澄ますと、選択って自ずと、そこを基準にしてくるはずなんですよ。
それをみんなに体験して欲しいと思っていて、五感を鍛えるワークショップも企画しています。
自分で選択できる人が増えると、恐らく世の中はもっと楽しくなると思います。
「ストレッチゾーンへようこそ。」ですね。(笑)
選択肢を広げる
K:人間は10歳ぐらいまでに感覚が成熟されると言われていて、味覚もほぼ決まってしまいます。
N:10歳までに食べてきたもので、その後の人生が決まってします。なので、リミッターを外してあげたいと思っています。リミッターをつけたままだと、その狭い範囲内での判断基準しか持てない。
「美味しい。」と思うものをもうちょっと広げていってあげる感覚です。自分たちは自然食を提供しているけど、五味に対して理解がある人でないと受け入れられない場合もあります。小さい頃から、化学調味料とかで調理している食事を好んで食べていたら、そういう食事を好きになってしまうので、化学調味料を外した料理を提供したときに、「美味しい。」と思えなくなってしまうかもしれない。
野菜もそうだと思います。化学農法で育てた見た目が綺麗な野菜とか、甘みだけに特化した野菜を美味しいと思って食べていると、苦味とか、滋味深さとかを美味しいと思ってもらえないかも知れない。
そういう想いがあって、五味の授業は子供達にやりたいと思いました。
選択の幅を残してあげたいと思っています。
N:最近の活動として、食育をメインにして活動しています。レストラン空間だけでなく、子供達にまつわる食を調えたいと思っています。売り上げだけとかのプライベートなことの追求ではなく、土台の部分を含めての幸福を訴求していったほうが自分が幸せで、幸福度が高い。
K:食育の映画上映をしたり、市民団体もやっているので、お母さんたちと食育の勉強をしたり、料理教室をしています。
日常の豊かさを求めて
N:最終的には、このお店が必要とされなくなることがゴールだと思っています。
K:外食に依存する生活ではなく、家庭料理を豊かにして欲しいという想いがあります。その為、お店にも自然食品を置いています。家庭の調理を大切にすることが一番自分の体を健康にします。
例えば、お客さんが「美味しかったです。」とお話されれば、提供した料理のレシピを渡します。「このドレッシングはこうやって作るので、ご自宅でやってください。」っといった形でオープンソースです。レシピ公開型のお店です。何も隠さないです。秘伝とか無いです。(笑)
逆に、「ご自宅でやってみてください」というスタンスです。
N:サービスではなく、応援です。料理を提供する人対消費者の関係ではなく、生活する人という括りです。「生き生きと、楽しく幸せに生活する為に、応援したい。」そう思っています。
どんどん豊かに暮らしていく人が増えていけば、社会は幸せになると思います。
K:お店に来て欲しいというよりは、「日々の生活を大切にして欲しい。」ということを伝えたいです。
N:あまり押し付けがましいのは良くないと思っていて、日々の生活にちょっと違う選択を入れて欲しい。大きな変化はいりません。
K:大きな変化って続かないんですね。私はランニングをしているのですが、「私の目標は〇〇分」のようにやると続かないんですよ。そうではなくて、日々のランニングを楽しむことだったり、今日も無事に走れたことを喜ぶことが大切であって、目標とか意気込みとかは続かない。
N:日々の生活する中で、無意識なものも含めて無数の選択が積み重なっています。私たちはその無意識下の選択肢を提供したいと思っています。
ストーリーを届ける
K:「いっかく」という八百屋を穂高神社横に新たにオープンしました。
背景には、生産者さんに対する想いがあります。
生産者さん、提供者、お客さんが全てフラットな形であれば良いのですが、現状そうでは無いと思っています。段階構造になってしまっている。
N:生産者さんのファンになって欲しいと思います。野菜への誠実さや、生産者一人一人のキャラクターであったり。まず知ることだと思います。知れる場所を提供する。そして、野菜に対する想いであったりを届けてあげる。
K:農家さんの食材の一部分だけを切り取って、美味しい、まずいだけではなく、もっと背景的な部分も含めて、提供していきたいと思っています。
良いお野菜は調理していると気持ちが良いし、味がしっかり乗っているお野菜は調味しなくても美味しいです。そういうお野菜がなくなるというのは、私たちが提供したいものが無くなったり、私たちの楽しみもなくなってしまいます。生産者さんを支えていかなければ、扱う素材も無くなってしまうので、自分ごととして捉えています。
N:僕は、純粋に生産者さんを尊敬しています。そして、生産者さん達の努力、チャレンジ精神みたいなものをもっと知って欲しいと思っています。
なので、生産者さんに直接赴いて、様々なものを見て、聞いています。そうすると、私自身がその人の生活の一部になっていきます。僕はその人の野菜を使うことによって、応援することもできる。
さらに、長く応援し続けることが大切だと思っています。
その土地で暮らしていくための信用経済だから。例えば大きなイベントをやって、大きな収入が一時的に入るというのも良いとは思いますが、マーケットに合わせた動きをしていくのは、本来の自然の形では無いと思っています。
生活で結び合っていかないといけないと思っている。打ち上げ花火として結ばれている関係は、お金はもしかしたら儲かるかもしれないけど、続かない。農家さんは工業製品を育てているような気持ちになるし、健康とは別の方向に向かっていく。個人の健康、社会の健康を保っていくためには、細く長くやっていくことが大切だと思います。
顔の見える関係性を大切にしたいと思います。支えられる人数は少ないけれど、お金だけの関係性では無いものを構築していきたいと思います。
K:売れなかったものを持ってきてくれる農家さんとか、格外で安くなってしまったものを持ってきてくださる農家さんもいらっしゃいます。作っている人の気持ちを含めた上での野菜を楽しんでもらう場を体験してもらう。料理を食べるだけの体験以外のことを我々は付加価値として提供していきたいと思っています。
N:余ってしまった野菜もできるだけ活用しています。八百屋は、構造的にやっぱり野菜が余ってしまう。でも、余るものは絶対に廃棄したくない。火曜日が定休日なので、月曜日にお店で余った野菜を使ったパーティーをしています。自分たち家族もそうだし、友人家族や、生産者さんを呼んで食事をしています。ただ、食事を楽しむだけでなく、交流の場にもなっています。
こういった取り組みは、もっと展開できると思っています。お家に眠っている乾物や、買ってはみたけど使わない塩とか、お土産で買ったけど食べないものとか。これがいわゆるフードロスというものです。これらを生かして、穂高全体でも一緒に面白いことをしたいと思っています。
最後に一言
ジビエや、野菜料理を生活の中に取り入れたいと考えているけど、どうやったら良いかと模索している方にはお力になれると思います。家庭料理のヒントとなれれば嬉しいです!