インタビュー2018.11.08 Text By ryosuke kobayashi ,
Photographs By ryosuke kobayashi

人生を発酵させる。|Glocal foods「NAVEL」 崎元 伸郎 /崎元 生歩子 #1

Glocal foods NAVEL

崎元 伸郎 崎元 生歩子

Iターンオーガニッククライミングランニング夫婦経営山登り自然栽培

食と向き合うきっかけ

崎元 伸郎さん(以下、N):神奈川県川崎市出身です。川崎なので、ほぼ首都圏で生活していました。自分で料理は作っていましたが、仕事にするイメージは最初は無かったです。自立する為のツールぐらいしか思っていませんでした。

崎元 生歩子さん(以下、K):私は大分県の出身です。中学校にあがるタイミングで単身上京のような形で、寮に入りました。一貫教育の学校です。私は、高校生の頃に色々なきっかけがありました。高校生の頃がちょうどカフェブームでしたし、ヨーロッパに行く機会があって、それから飲食に興味を持ち始めました。なので、料理は高校の時からやっていて、ワインスクールでバイトもしていました。その後、自然な流れで、ホテルで就職をしました。

N:食へ大きく関心が向いたのは、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)が起きたことが大きなきっかけでした。当時、19歳の時です。日本という国に生まれて、今まで何不自由なく何の気なしに生活していた中で、あの事件をきっかけに、社会の深さというか、社会がどう動いているのかに興味を持ち始めました。それと同時に、自分が本当にやりたいこと、社会に必要とされることをどうマッチングしたら良いのかなと考え始めました。
ワールドトレードセンターは、資本主義経済の象徴みたいなもので、それに対して、ショッキングなアプローチがあったということは、経済構造が破綻しているのでは無いかと感じました。なんとなく、自分が責められているとも思いました。自分には、見えない世界がある。そう考えると、環境破壊や、劣悪な労働環境などの色々なことに目が向くようになりました。

K:同じ歳の私自身は、あのニュースを見て、「大変!」と思っただけだったのですが、主人は、社会の裏側とか、なんでこんなに恨みを買うのかと思ったみたいなんですね。

N:我々に見えない生活を知ろうとせずに、我々が幸せに暮らしているというのは良くないのではないかと感じました。
自分の幸福と、社会の幸福をどう両立させようかと考えた時に思ったのが、食でした。
食が1番僕にとって、ポピュラーだし、「美味しい。」と思うだけで誰もが幸せになる。
自分たちの幸福だけでなく、次の世代の環境を考えて、選択をしていくことの大切さを感じました。

私たちが長野に来た理由

K:畑のあるレストランを目当てに、まず主人が25歳になる時に単身で行きました。
付き合い始めてすぐに「僕はもう長野に行くから。」と言われて。(笑)

N:当時、2人とも東京で野菜に特化した同じナチュラルフレンチレストランで働いていました。色々な場所から有機野菜を取り入れたりしていましたが、お店のある場所で作られているわけでは無い。外から農産物を買って来て、ガソリンを沢山使って飛行機や、トラックで運んで来る。莫大なエネルギーを使って運んで来ることに違和感を感じました。

また、畑になっている野菜の姿を知らないんです。(笑)スーパーに並んでいる野菜の味と、形しか知らない。野菜を手にとって、美味しい、美味しく無いの判断だけをするというのは、お客さんに対しても、生産者さんに対しても、不誠実だと思いました。
これから先、料理をやっていく中で、何より自分自身に不誠実だと思いました。
お客さんに対してのプレゼンテーション能力も高めたかったし、創造性の面でも学びたいと思っていたので、畑のある場所で働きたいと思いました。
たまたま知り合いのお店があったので、行ってみたら、すごい居心地が良く、もうすぐ決めました。思い立ったらすぐ行動しちゃうタイプなので、、。(笑)

K:あまり周囲のことは考えず。(笑)私は、主人が長野に行ってから2年後に移住をしました。長野に来て良かったと思います。
私は都会のレストランで働いていて、尖ったサンダルとかを履いて、都会の人ぶっていたのですが、都会にいたら、お客さんにただ単純に美味しいと思ってもらうことや、日々の売り上げの数字に、多くのウエイトを置いていたので、社会的な問題についてまで考える余裕が無い。
当時は、主人と離れて、お店を転職して、キャリアアップを図ったのですが、仕事のサイクルがすごく早くて、体を壊してしまったりといったこともありました。

そこから、飲食の仕事を辞めて、全く違うアウトドア用品や、スポーツウェアを売っているお店に転職をしました。
職場には、アウトドアが大好きな人たちが周りにいて、「長野良いじゃん。」と勧められました。同じ東京の中でも、こういった価値観ってあるんだということに気づけて、長野県が近く感じるようになりました。

穂高である理由

K:穂高にゆかりは特に無いです。(笑)今のお店を3年前にオープンしたのですが、ずっとこの物件が空いていました。穂高駅の目の前の交差点なのに、10年位ずっと空き物件でした。
グレーのカーテンが閉まっていて、売り物件だったんです。

N:本当にカーテンが閉まって、真っ暗だったんです。死んでいたんです。(笑)
でも、僕はそれが宝に見えたんです。「ここは死んでいたらまずいよね。」って思って、ちょっとした使命感に駆られました。場所ありきで、ここの課題は何かと俯瞰した時に、この街が楽しくなることを表現したいと思いました。

K:穂高の駅前のこの場所だったら何をするのが良いかと考えて今のスタイル。
自分のやりたいことと、この街にはこれが必要では無いかという観点を併せ持ちつつ、お店を作りました。
安曇野の土地の食材のポテンシャルはすごく高いので、それをもっと提供できる場所は欲しかったし、農家さんも欲しいと思っている。

N:穂高の駅前に若い子が楽しめる場所が無かった。
でも、無かったら、「作れば良いじゃん。」って思うんですよ。(笑)
なので、文句を言うなら智恵を出そうよと思っています。まず自分が飛び込んでみないと。

発酵と腐敗

K:このお店は畜産のお肉は一切使わずに、鹿とイノシシを中心にジビエを使っています。ジビエは狩猟でとる野生のお肉のことです。害獣駆除をされる中で、その9割が破棄されている現状があります。その中で、たくさんのコスト、エネルギーをかけて畜産のお肉を食べるのなら、山のお肉を食べたほうが良い。

N:「発酵と腐敗」を大きなテーマとして持っています。どう人生を発酵させていくかというのが大きなテーマです。食べ物でもそうです。なので、なるべく食べた後に発酵していくものを使いたいと思って、日々調理しています。食を提供していく責任として、その場で美味しいだけでなく、食べた後の食後感だったり、健康といった長期的な視点として見たいと思っています。なるべく発酵するものを提供していきたい。ジビエは腐りづらいんですよ。さらに、抗生物質や、成長促進剤やホルモン剤は使える余地がありません。
美味しく調理すれば、食べられる高級食材だし、提供したお客さんの健康を長期的に考えられるので、積極的に使うようにしています。

K:原体験としてあるのが、子育てです。豚カツとか畜産のお肉を食べると、ホルモン系のもので太らせていたりするので、授乳トラブルが起きてしまいました。
それが、山肉を食べた時にはならなかったんですよ。鹿肉を食べたら大丈夫だった。
動物的な判断ですが、これは子供に食べさせられるものだと思って。体への負担がすごく少ない。
食味だけでなく、体への負荷を考えた時に、子育ての上でも良いなと思いました。

Glocal foods NAVEL

■住所 〒399-8303 長野県安曇野市穂高5952 Googlemap

■営業時間 よろずや いっかくにて営業しております。

■TEL 0263-75-6441

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