歴史を繋ぐ場所|かめのや 斎藤 博久 #2

 
 
 

歴史を繋ぐ場所

松本に行ったら、「仕事はなんでも良いな。」という想いと、そういえば「喫茶店やりたかった。」なという二つの気持ちがありました。前職は仕事が楽しすぎて「喫茶店をやりたい。」気持ちを忘れていたので、「喫茶店やってみようかな。」という想いがどちらかと言うと強かったです。当時、26歳だったので、30歳までやって食えなかったら諦めようと。
30歳だったらどこかの会社がもらってくれるだろうとそういう気持ちで始めました。

二か月くらいニートして、その後、派遣に登録したのですが、工場で働いていたら、めちゃめちゃ開業準備の時間が無くて、、。
そこから、また無職になって物件を探しだしたぐらいに、嫁さんが「ここなんか前喫茶店で、今は休業しているけど、どうかな?」という話がありました。
その日にそのお店を見に行ったのですが、もちろん店内を見ても、暗いから何も見えませんでした。この物件の持ち主である翁堂さんの本店へ突撃で行って、「そこ貸していただきたいのですが、今どういう状況になっているのですか。」と飛び込み営業をしました。(笑)
5分後には社長に会えて、そのままお店の中を見せてもらい、たばこを吸いながら、昔話を聞かせてもらいました。
前職の営業力が生きました。(笑)

この物件は候補物件の1つという認識だったのですが、内覧させてもらった時に庭を見て、「こんな物件は他には無いと。絶対にない。」と。(笑)
基本的には1人でやるイメージだったのでコーヒースタンドとか、ちっちゃい喫茶店のような形でやろうと考えていたのですが、やっぱりこの内装と庭を見てしまったので、家賃とかも聞かずに「ここだな。」と思いました。ここでやってみてダメだったらしょうがないぐらいの衝撃でした。ただ、僕の他にも5,6件ぐらい借りたいと言う話が来ていて、翁堂さんも僕に貸す気は、最初無かったようです。初めて社長さんにお会いした時の昔話を聞いていると、「60年前に社長のお母さんが開いたお店で、自分のお母さんが始めたお店なので思い入れが強い。」という話でした。
なので、違う人に貸してしまうと雰囲気が変わってしまう。これがすごい嫌だと。
このお店でフランス料理をやりたい人がいたみたいなのですが、カウンターが狭いので、カウンターをつぶさないと出来ないという話で、それは絶対に嫌と話されていました。
僕は「この雰囲気すごい好きです。どこも変える必要ないですよ。」と本心で話しながら、そこから「やってみるか。」と話を頂いた流れになります。

ここのお店と、思い出のお店「たまり」が重なっているのは、こんなに立派な作りではないんですけど、やっぱりカッコ良い大人がたばこを吸っているイメージが重なりました。
シャンデリアがあるのですが、これもともとは透明なクリスタルで、これが何十年分かのヤニで琥珀色になっているんです。そういう歴史が詰まっているんです。自分でお店やるにあたってメリットは自分の想いを前面に出せるということがあるんですけど、こういう歴史は、もちろん0なわけで、そういう人の想いみたいなモノがここに詰まっているんだなと。
椅子一つとっても、ここでじいちゃん、ばあちゃんたちがたばこを吸っている場面が想像できるというのがあって「良いな!」と思いました。

喫茶店にこだわる

自分が行きたいお店を作りました。僕は喫茶店をやりたかったけど、こういう内装に出会ったのはたまたまで奇跡みたいな話です。もしスケルトンでなにもない空間であれば、最大限努力して、自分の行きたい店を実現すると思いますけど、こういう物件ありきの商売の場合は、物件の状態がどうかで左右されてしまう。
でも、ここは自分の趣味どストライク真ん中だったので、全然変えなくて良かった。むしろ変えない方が良い。たまたまこういう店をやらせてもらっているのですが、僕は大満足です。(笑)
最近の建築の話で言うと、昔のお店は、高度経済成長期の後押しがあって、個人のこだわりが強い特徴的なお店が沢山あった。そういう店ってすごいカッコ良いなと思うけど、そういう店はこれから飲食が盛り上がってくるぞという経済の後押しがあったから。
ここでお客さん呼んでやるぞというすごいエネルギーがあった時代。
資本をかけて、こだわりを出しても大丈夫だった時代。
今は、特注でいろいろ作ってくれる職人さんとかもほとんどいなくて、店に置いてある椅子も「今は誰が作れるの?」という話で。
そう考えると今作れないものが沢山あるし、今できないものは全部残したいと言う想いがあります。
最近できるお店で言うと、そんなに外見の違いは感じなく、ぱっと見で、スペインバルだったらスペインバルってすぐにわかる。
けど、こういう入りにくいお店で開けたらまさか庭があるとは思わない。(笑)


そういう驚きは割と今は少ないと思います。ガラス張りで中がわかるお店が多くて、開ける楽しみがあるお店が少ない。ドアを開ける楽しみがすごい好きで、中が分からなければわからないほど開けたくなる。(笑)そういうタイプの人間です。
新しいお店は発見が少ない。そんな感じがします。
中も全部見えるし、メニューもわかるし、こだわりも全部書いてあるし、これ以上喋ることないみたいな。(笑)
どっからコミュニケーションとるのかな?と、あと天気の話しかすることない!(笑)

かめのやのこれから

個人としては最近子どもが生まれたので、あんまりお気楽にもしてられないと。稼がなきゃならないので。なんでもバランスだと思うのですが、頑張りすぎてもいけないし。
今のお店は8割方常連さんで成り立っていて、ただ、お店のキャパを考えると、せっかく豆も焙煎しているので販路を拡大していかなければならないと思っています。
その一つに物販に力を入れていきたいと思います。
ドリップパックという商材があるのですが、いろんなコーヒー屋さんをみてみると1,2種類しか置いてない状態です。今うちのは豆の種類が14種類ある中で、豆売りもしているのですが、ドリップパックであれば、いろんな種類を一個ずつという楽しみがあるので、であれば14種類売ってしまおうと思っています。
結局、飲んでおいしいなと思っても、家でコーヒーを入れるのは大変という中で、器具を持っていなくても楽しめるような形にしていきます。
そういう意味では、喫茶店と、豆を焙煎しているコーヒー専門店の境目を狙っていて、コーヒー好きな人も、コーヒー好きじゃない人も気軽にコーヒーを買っていける。
そんな状況にしたいと思っています。
是非、気軽にお店に足を運んでください。