インタビュー2018.11.11 Text By ryosuke kobayashi ,
Photographs By ryosuke kobayashi

暮らしに合わせる働き方|ヤマとカワ珈琲店 川下 康太

ヤマとカワ珈琲店

川下 康太

Iターン大阪府愛知県空き家改修

この記事は、ヤマとカワ珈琲店様のサイト上に記載されている、
「今に至るまで」
「珈琲について」
をもとに、インタビュー記事を作成しております。

人生の選択肢

《~開業するまで》
高校や大学でも特にこれといってやりたい事は見つからず、就職の時も「強いて言えば建築好きかな」くらいの感覚で建築資材メーカーの営業マンになった。
言われた通りに仕事をして、それなりに給料をもらい、それなりに楽しい日々を過ごした。

学生時代を振り返ると、熱中したことは、特にありませんでした。
部活は中学までは野球をやっていましたが、高校では続けず、帰宅部として、アルバイトをしていました。
卒業後の進路も、周りがみんな大学に行くし、親も「大学に行ったほうが良い。」と言うので、大学に行く以外の選択肢がありませんでした。その先も、大学に入って、そのまま就職してという人生しか無いような気がしていました。すでに将来のルートはできていて、そのルートをどうクリアしていくかみたいな感じでしか考えていなかったと思います。

大学入試では、どうやって大学に楽して入学できるかを考えました。当時、得意科目が数学、物理、英語だったので、その3科目で入学できる大学を絞り、その中で、「強いて言えば、この学部かな。」と思うところを受験しました。この時、大学4年間で、何が勉強したくてというのは、全くありませんでした。であれば、それなりに良い大学に入学していた方が就職も楽かなと。

就活の時も、特にやりたい仕事はなくて、とりあえず会社に入るというぐらいしか出来ないのではと思っていました。その中で、建築の分野に興味があったので、建築分野で就活を進めて行きました。
入社したのが、建築の資材を作るメーカーだったので、資材を建築の現場であったり、施工会社へ営業に回る仕事をしていました。ずっと営業でした。
サラリーマンとして、7年間働いていて、大阪で4年と、転勤で名古屋に3年いました。
この7年間の中で、当然、不満はそれなりにありましたけど、「そんなもんかなと。」思っていました。やりがいはそんなに感じていなかったです。働いていれば、毎月決まって給料が何十万と入ってきますし、それを自由に、何も気にせず使えるというのは、それなりに楽しかったです。

今までの自分との脱却

30歳を目前に親しい友人が家庭を持つ姿を見る機会が増えた。その時に、生まれて初めてこれからの将来を真剣に考えた。
“これから”を考えたときに分かったことは、自分の“これまで”は何の目標もなく過ごしてきたということだった。
そんな今までの自分から脱却するために作ったのが『ヤマとカワ珈琲店』です。

友人の姿を自分に置き換えた時に、自分の将来について、初めて真剣に考えました。自分もそのまま結婚して、家を買ってということです。大学に入って、就職をしてと決まったルートを歩いてきたことは、今だから思えますが、その時の自分って、何も気づいていなかったと思うんですよ。それ以外の選択肢が無いと思っていたから。周りの友人たちを見て、「このまま俺もいくのかな。」と考えた時に、違和感を感じたというか、「このままで良いのか。」と初めて思いました。


その想いの中で、会社内で自分を変えていくという気持ちは、全く無かったです。違う会社に入るという選択肢も全く無かったです。色々振り返ると、自分で何かをやり遂げたことが無いということが、すごく足りないと思っていました。 学生時代に熱中できたことが1個でもあると、それが少し自信になってあまり引っかからなかったと思うんですよ。でも、人生振り返った時に、本当に何も無かったというのが「やばい!」ってなったんだと思います。
なので、自営業をしたいという一択でした。会社を嫌だというよりも、自分で何かをしたいという想いが強かったです。

そう、だから、別に珈琲が昔から特別好きだったわけでも、どうしても珈琲屋になりたかったわけでもないんです。
とにかく自分が変わるためには、自分で仕事を作って自分の責任でやる自営業しかないと思っていて、「長く続けられる」という視点で自分にできることを考えた時に出てきたのが(ちょうどその時趣味だった)珈琲の焙煎を仕事にすることでした。

珈琲屋をすっごいやりたいわけでは無いんですよ。自営業をしたかったんですよ。その中で、何で食っていけるかを考えた時に、珈琲が出てきたんですね。
もちろん珈琲は好きですけど、「珈琲でなくては絶対ダメ。」という想いは無いです。
自分たちが暮らす中で、気持ちよく働ける職種が珈琲屋なだけで、珈琲をやるためだけに家族を犠牲にするという気持ちは無いです。珈琲を焙煎するのもすごい楽しいですし、珈琲も好きなので、それは十分モチベーションになっています。自営業というのは、自分で仕事を作って、お金をいただいて、暮らしていくということだと思うので、それがたまたまお金を生み出すのが珈琲だっただけなんですよ。

会社を辞めて、個人事業主として生きていこう。そう心に決めたタイミングで、たまたま知人から「長野市に古い空き家を利用した個人店が増えている」という情報を教えてもらった。早速その翌週には長野市に視察に行き、古い空き家を何軒か見せてもらった。家賃の安さや古い建物の趣がとても魅力的に映った。 地元の大阪で店を始めようと考えていたけれど、借金せずに開業できるハードルの低さや、変わるために必死だった自分には、長野市への移住はそう難しいことではありませんでした。

場所は、本当にどこでも良かったんですよ。たまたま一番最初に候補地に上がってきたのが長野市だったというだけです。名古屋の知り合いに、「長野市が今、善光寺の周辺で空き家を改修したお店がちょっとずつ増えているよ。」という情報だけ教えてもらって、何となく「面白そうだな。」と感じていたので、それからすぐ長野市に行きました。

色々考えても、悪く無かったので、長野市に来たという感じです。当時、「大阪に帰って地元でお店をやろう。」という気持ちが強かったので、ある程度、大阪で物件や、家賃の相場を考えていました。ですが、長野に行って、色々話を聞くと、考えていた金額感よりも、全然安くできることがわかりました。長野には山登りに行ったりもしていたので、何と無く良いイメージもありました。
本格的に、色々とお金を計算すると、借金せずにスタートできる金額感でした。失敗してもマイナスにならないので、「とりあえずやってみて、無理だったらまた考えれば良いか。」と思っていました。

知り合いは誰もいないところからスタートしましたけど、逆にそれぐらいの方が自分の実力を試すなら良いかなと思っていました。もともとが自分の実力を試すというか、自分で1からやりたいということだったので、それならそういう場所でも良いかなとも思っていました。たまたまその場所が新潟だったら、今、新潟にいるでしょうし、それが偶然長野市だったというのは、今考えると何かの縁だったのかもしれないですけど。

暮らしに合わせる

《開業後》
開業1年目は喫茶スペースも作って、ちょっとした食事も提供していました。
珈琲は1日のはじまりに飲むのが好きだからモーニングをやって、せっかく開けるならお昼は食事も出して、珈琲は自家焙煎して、でも人件費はかけたくないから1人で全部やって。と、朝から晩まで忙しく体力的にキツい日々。
思い描いていた暮らしとはちょっと違うかもと感じながらも、飲食店の経験が全く無いこともあって、「こんなもんなんだろう」と自分に言い聞かせていました。
できるだけお店を休まずに、その時に出来ることを繰り返しやっていたら、少しずつお客さんが増えていった。自分の珈琲を求めて来てくれる人たちの声が自信になって、「ちょっと違うかも」という心の声に素直になろうと決意しました。

そして、開業2年目には食事の提供をやめ、4年目には喫茶の営業をやめ、今では珈琲豆の販売専門店になりました。
できることを減らすことで、自分たちに無理がなくなる。無理がなくなると、長く続けることができる。長く続けていると、質が上がる。そんな考えのもと、自分たちのペースや大切にしたいものを定期的に見直し、その都度何かを変える決断をしてきました。

振り返れば開業した当初は会社員時代のようにできるだけ仕事をして、それに合わせて生活をする感覚でした。今は妻や子供がいて、思い描く理想の暮らしに仕事を合わせたいと思っています。
これからも、理想の暮らしは変わっていく。そしてそれに合わせるように、これからも変わっていくであろうヤマとカワ珈琲店にお付き合いいただけますと、幸いです。

開業したての頃は、サラリーマンの感覚がまだ残っていたので、その働きに合わせた暮らし方をしていました。例えば、その場所で暮らしたいわけではないが、転勤になったから、そこに暮らすということです。飲食店だったら、朝から夕方までやるのが普通かなと思って、それに合わせて暮らしていたのですが、「それって違うのでは。」ということをちょっとずつ感じ始めました。
それは家族が増えたことが1つのきっかけです。暮らすというのがベースで、それに仕事を合わせていったほうが良いなと思って変えていきました。暮らしをベースでその隙間で仕事をするという感覚です。

収入を得るだけが仕事ではないと思っています。たくさん忙しかったら、たくさん外食してしまうと思うんですよ。疲れて、自分で作る時間がないから。そしたら出て行くお金も多いから、それってプラスマイナスあまり変わらなくて。労働時間を減らして、自炊をしたり、野菜を作ったりということができれば、出て行くお金が少なくなる。そうすると、残るお金ってそんなに変わらないと思っています。それであれば、収入を増やす努力をするよりも、支出を減らす努力にあてる時間の方が、ストレスが無いと思っています。家族全体で考えた時に、収入だけ増やす必要はなくて、支出を減らせば、収入少なくても良いかなと。なので、その選択をしました。
収入っていくら増えても満足しないんですね。もっと増やそうと思ってしまうから。
それはあんまりだなと思って。できる範囲で売上が増えていけば良いですけど、そこまですごく増やしたいとか、スタッフ雇って、店舗を増やしてというのは今のところ考えていません。

考え続ける

考えることがすごい大切だと思います。
自分自身の中にしか答えがないと思っているので。
考えて、とりあえず自分でやってみないと、納得できないと思います。
その中で、近い将来と、遠い将来を両方考えたほうが良いと思っています。すぐ先の、明日、明後日、1週間、1年後という近い将来。でも、それってしっかりと方向性が定まっていないとダメなので、遠い10年後を見ながら、逆算して、今を考えるというのは、よくやっています。

考える中でも、自分の幸せは理解しようとはしていて、自己分析はいつもしています。今であれば、家族全員の気持ちを分析しますけど。
結局、働くことは、暮らしの一部でしかないので、働くとか、職種ってそんなに必要性がないものだと思っています。生きるためには何が重要かを考えると、楽しくストレス無く生きることだと思うので、それは良く考えます。妻とも話しますし。

日常的に考えています。普通に過ごしている中で、「なんか違うな。」と思うことが多いというか、引っかかるんですよ。そう思った時に、なんで違和感を感じたのかを細かく分析していると、「〇〇と言われたのが嫌だったんだ。」「〇〇の時が嫌だったんだ」というのに気付けてきて、だったらこの行動やめようのように修正できる。

サラリーマン時代に「自営業をなんでやるの?」「自営業をやって将来どうなりたいの?」というのは、すごく考えたんですよ。1年半ほどお金を貯めている期間で。毎日のように。仕事終わった後に、喫茶店行って、ノートにみっちり書いて。その時に癖付いたかもしれないですね。こういう時間は定期的にやらないと気持ち悪いですし、忙しいとなかなかこういった時間は取れないので意識的に考えるようにしています。

私たちが大切にしている3つのこと

1. 毎日飲める
質の良い生豆を使って、美味しい成分の化学変化をしっかり促すように弱火でじっくり火を通します。雑味がなく、甘味やコクが口の中にずっと残っている余韻の長い珈琲を目指しています。ガツンとした一口目のインパクトよりも、飽きのこない毎日飲める味です。
生豆の選定には、うちの焙煎機で美味しく焼ける豆であることと、仕入れ値が高すぎないことをポイントに選んでいます。毎日飲むためには値段もとても重要。日常で飲みやすい値段と、お店を続けていける利益とを考え、ある一定の値段以上の生豆は仕入れないように決めています。決められたその中でいかに高級品に負けない味を持っている銘柄を探し出すか、というところに腕の見せどころがあると考えています。

もちろん珈琲にはこだわりをもっています。ただ、そのこだわりをお客さんにどこまで表現するかというところに気をつけています。
「〇〇農園の〇〇で。」のように、あまりこだわりを表現しすぎてしまうと、お客さんは難しいと感じてしまうのではないかと思っています。
なので、豆選びをこだわったり、美味しい珈琲を作るのは当たり前の大前提として、それをお客さんにいかに難しくなく伝えるかというところに気を使っています。

2. 焙煎機のメンテナンス

火から下ろすタイミングが数秒違うだけで味が変わってしまう焙煎の世界。だからこそ焙煎機のメンテナンスは定期的に行っています。
焙煎機を大きく4つのパートに分けて、毎週1パートずつ掃除しています。外に伸びている煙突部分も季節が変わるごとに掃除しているので、ほとんど汚れ知らずです。
当店の珈琲が「雑味が少ない」とよく言っていただけるのは、日々の掃除のおかげかもしれません。

3. 無理なく続けられる抽出方法の提案

家で飲む珈琲とお店で飲む珈琲は別物です。
お店と同じ味にする為には、技術も必要ですが、コストがかかります。
1杯抽出するのにかける時間や、珈琲豆の量などを考えると、家では家の珈琲があっていいと思います。
淹れる方の性格や生活リズム、台所の広さ、飲む時間帯、珈琲のために使える予算、これらの条件を考えて、珈琲を生活に取り入れられる抽出方法を一緒に考えましょう。
大事なことは、カップに入った珈琲の味だけで判断しないこと。
お湯を沸かして豆を挽くところから、最後に珈琲器具を片付けるところまでが珈琲の時間です。それらを総合して抽出器具を選定しましょう。
月に1度、珈琲抽出ワークショップを開催しております。

家で飲む珈琲と、お店で飲む珈琲を一緒にするお客様が多くいらっしゃいます。豆を購入されたお客様で「お店で飲んだ珈琲と違う。」という言葉をよく聞くんですよ。お店って少し非日常であって、少し特別な珈琲。家で飲む珈琲は、毎日飲める珈琲。一緒にする必要はないと思っています。
毎日飲む珈琲を美味しく淹れれた方が良いと思っていますが、豆を購入されるお客様って「淹れ方わからないです。」のようになかなか聞かないんですよ。こっちが「聞いて良いですよ。」と伝えても、「大丈夫です。」との返答が返ってくる。

でも、ワークショップを開くと結構人が来るんです。それは、お金を頂いて、時間を割いてといった前提があったほうが、日本人の性格もあってか、聞きやすいからだと思います。
それに対して営業中だと、「忙しいから聞いてはいけないのではないか。」という感覚があるみたいで。

基本、教えるのにお金はいらないんですよ。僕ら豆で売っているので、完成品ではない。液体になって初めて珈琲で、途中のものを売っているので。淹れ方を教えるのは当たり前だと思っています。お客様に教えたいんですけど、ワークショップを開いたほうが、みんな聞いてくれるからやっています。

想いを表現する理由

あえて、サイト上で表現しています。今の時代って、個人店が多いですし、珈琲屋さんなんてどこにでもあるし、違いをみせるのには、想い、こだわりしかない。自分だったら、「安いから買う。」っていうのはあまりしないし、「誰から買う。」というところしかあまり考えない。僕らみたいな自営業が生き抜いていくには、やっぱり、僕が好きだから買ってくれるという人をいかに増やすかだと思っています。ネットで色々買えますし、近くにお店もあるだろうし、差をつけるのは人でしかないと思っています。

取材を受けて、記事にしてもらって、「見ました。」と言って来てくれる人もいますし、やっぱりそういう繋がりの方が強いです。ファンをいかに増やすかですね。珈琲豆もそこまでめちゃめちゃこだわっているとかではなくて、それよりもどう考えているかとか、どういう想いで作っているかの方が大事だと思っています。どの商品でもそうだと思います。

今後の自分

「生きるチカラ」をつけたいです。
どんな場所にいっても、どんな時代になっても生きていけるチカラ。
それはきっと野菜づくりであったり大工作業であったり、そういう手仕事ができるようになりたいです。
ただ、完全自給自足の暮らしに憧れているわけでもないので、珈琲の仕事を続けつつ、自分にとって家族にとってちょうど良いバランスの暮らしができるように目指したいです。

ヤマとカワ珈琲店

■住所 〒380-0815  長野県長野市鶴賀田町2252 Googlemap

■営業時間 13時~日没 定休日:水曜、木曜

■TEL 080-9283-9609

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